※本記事は、2025年6月刊行の『MarkeZine』(雑誌)114号に掲載したものです
【最終号特集】未来を創る、企業の挑戦
─ AI市場がどう変遷しても優位性を保つ。共創を軸に競争力を高めるパナソニックグループのAI戦略
─ 東京ドームシティが大規模リニューアル、世界一のエンターテインメントシティへの挑戦
─ 大塚製薬「Vivoo」が拓く、栄養モニタリングの新市場──尿×アプリで実現する“測る”ヘルスケア
─ 「感動立国」実現に向けた、B.LEAGUEの挑戦 大改革を通じて目指す世界観とは
─ 社会の変化の中で、新しい価値をどう生むか。大日本印刷がコンテンツとXRで挑む新規事業開発(本記事)
生活者の変化に合わせて、新たな体験価値を提供
──貴社における「コンテンツ・XRコミュニケーション事業」の位置づけを教えてください。どのような経緯で立ち上がった事業でしょうか?
コンテンツ・XR(Extended Reality)コミュニケーション事業はDNPグループにおいて、新規事業開発のミッションを担っています。取引先やパートナーの開拓も含めた、ゼロからの新しい事業・価値の創出を求められています。
以前は「コンテンツビジネス」と「XRコミュニケーション事業」が別組織でしたが、2024年4月に統合されました。コンテンツ事業とXRコミュニケーション事業、そして既存の印刷関連事業から3D制作にシフトした制作部門の3つの領域でスマートコミュニケーション部門を構成しています。

1992年大日本印刷入社。スマートコミュニケーション部門の営業に長く携わる。18年コンテンツコミュニケーション本部長、20年出版イノベーション事業部CLMビジネスセンター長、24年コンテンツ・XRコミュニケーション本部長。コンテンツプロデュース・XRコミュニケーションを推進し、スマートコミュニケーション部門の新規事業を牽引。
私自身はコンテンツビジネスに従事し、アニメやゲーム業界のクリエイターが元気に働けるようにと新規事業を立ち上げてきました。日本動画協会が行っていた「東京アニメセンター」の運営事業を継承。東京アニメセンターの運営をきっかけに、2018年からイベントや展示会の運営も行っています。
一方そのころ、XRコミュニケーション関連の事業も立ち上がっていました。これからのコンテンツビジネスには、リアルとデジタルの融合したコミュニケーションが必要だという発想のもと、当社が培ってきた技術を活かして独自のサービスが作れるのではないかと考えたのです。
2023年ごろから、コンテンツ事業とXRコミュニケーション事業が融合した取り組みが増えてきたので、1つの事業体として確立したという経緯です。
──コンテンツ・XRコミュニケーション事業が目指すところは何でしょうか?
コンテンツ事業においては、「『あこがれに近づく』を世界に届ける」というビジョンを掲げて、コンテンツのプロデュース事業を国内外に展開しています。
XRコミュニケーション事業は、リアルとバーチャルが融合した「XRコミュニケーション」という新しいコミュニケーションを社会に実装することで、誰一人取り残されない社会の実現に寄与することを目指しています。たとえば、地域連動のXRサービスや、企業向けのXRマーケティング、個人の分身のようなAI活用サービスといった事業を創出しています。
いずれも、消費者の生活やテクノロジーにいろいろな変化が起こっている中で、新たな体験価値を提供することが大きな目標です。
──エンターテインメントを届けるだけでなく、社会における日常生活にどう価値を届けるかも、大きなテーマなのですね。
そうですね。私たちはコミュニケーションを作るプロです。版元さんから預かったコンテンツを変換して、プロデュースしていくプロなんです。
サービスを受ける生活者やファンの皆さん、地域住民の方は、デバイスの変化とともに情報の収集・発信の仕方、コンテンツの楽しみ方が変わってきています。昨今の生活の変容に合わせてコンテンツの届け方を変えながら、新たな体験へとアップデートするのが私たちの役割だと思っています。
生活者が快適かつ安全・安心に楽しめる体験をまずは目指して、「こういう人たちに対しては、IPをこういう形で変換したら、ワクワクしてもらえるのではないか」と設計する。コミュニケーションファーストでIPを変換していくことが大事です。
この考え方は、当社の会社としての遺伝子からぶれていません。昔から本という形で版元のコンテンツを広めてきましたが、それがスマホなどの新しい媒体に変わってきただけなのです。
──どのように生活者の変化を察知し、今の生活者に最適なコミュニケーションを導いているのでしょうか?
デジタルツールを使った在庫管理やPOSデータによって、「どんな人がどういうタイミングで購入するか」を分析して捉えています。
しかし、コンテンツは何が流行るかわからない側面があります。分析だけでは捉えきれない部分も大きいです。そこで、一人ひとりが企画のプロデューサーとして、実践を重ね、その成功と失敗から学ぶことを重視しています。そうすることで知見がたまり、最適に向かって改善が進んでいくのです。
また、XRコミュニケーション事業では自治体や教育現場などが抱える社会課題に向き合っています。我々の持つ技術先行ではなく、社会で皆が安全・安心に暮らせる状態を目指すという目的に向き合うことを意識しています。